●審 査 委 員・講 評 |
■委員長
油井正昭(千葉大学教授) |
今回から自由課題部門が無くなって、住宅庭園、街区公園、実習作品の3部門になったが、作品応募数は昨年と変わらず、コンクールの関心の高さを感じさせていた。作品は部門別に審査し、入選18点と佳作10点を選び、入選作品の中から6日本造園建設業協会長賞6ランドスケープコンサルタンツ協会長賞、全国高等学校造園教育研究協議会長賞を選定した。さらに、これらの受賞状況を踏まえ、高等学校に授与される文部科学大臣奨励賞受賞校が決定された。各賞に受賞した方々には、心からのお祝いを申し上げます。
今回は各部門ともレイアウトと彩色技術の上手、下手の差が目についた。受賞作品は、図の配置、文字量、文字の大きさ、凡例の位置など全体にバランスが良く、彩色も丁寧に仕上げてある。要するに作品が理解しやすい。また、計画テーマをつけた作品も計画意図がわかり、理解を助けているが、言葉遊びの感じがする作品があったので、テーマ設定は十分に検討したい。
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■佐野
明(文部科学省初等中等教育局参事官付教育課程調査官) |
若者が傍目にも分る程に成長するのは、その人が何か目標や課題をもって、それに必死に取り組んだ時である。取り組みの過程が困難なものであれば、その若者の成長の度合いは一層増すことになり、結果が良ければ自信も生まれ、成長はより確かなものになる。
造園デザインに懸命に取り組み、コンクールに参加することは、その良い例の一つである。
本年の高校生の応募は、25校から234人であった。
八日市南高校の青山智明さんの実習作品は、瓦を縦に埋め込んだり、横に並べたりして、学校の前庭という「洋」の空間に「和」の雰囲気を無理なく実現していた。京都府立農芸高校の松本祐介さんの作品は、二重の竹垣と小さな植栽でしゃれた現代的な庭を構成し、ホテル客がくつろげる空間を実現した。興陽高校の田辺範和さん、八日市南高校の小倉秀弥さん、富永優子さん、宇部西高校の迫史乃さんの作品も見事でした。
本年の文部科学大臣奨励賞は、応募数11点、入選5点、佳作2点で、それぞれが個性的な作品を指導された八日市南高等学校に決定しました。 |
■小板橋二三男(全国高等学校造園教育研究協議会理事長) |
個人住宅庭園部門において、一戸の住宅の庭としてだけではなく地域・町並みを意識した作品が多く寄せられた。この傾向は、極めて歓迎すべきことである。「ランドスケープコンサルタンツ協会長賞」を受賞された作品は、図面に家並みを描きこの家並み全体での共通するデザインコンセプトを示した上での提案となっている。同じく住宅庭園部門で「全国高等学校造園教育研究協議会長賞」を受賞された作品は、日常生活で楽しむ庭を具体化し、キッチンガーデンでの植物栽培の一年間のローテーションを示し審査員を納得させるものとなっている。
今回からは、グループでの応募が可能となったので、更なる応募を期待したい。 |
■西山俊雄(全国高等学校造園教育研究協議会副理事長) |
造園デザインの傾向には、毎年多少の変化が見られる。今年度の特徴としては、ガーデニングブームもあってか、「楽しんで作れる庭」「住みたい庭」を感じさせる作品が多かった印象である。これは造園(庭園)に対する関心の高さ、或いは、最近の造園のデザイン教育を反映しているものと思われる。
作庭実習作品の応募は、例年に比べ減少したが、例年通りすばらしい作品ばかりで審査が難しかった。この取り組みは、個人ではなくグループで実際に取り組むため、造園技術の習得も然ることながら、[人づくり」としての教育効果(教育力)もすばらしいものがあると思われる。
街区公園は、一般・大学生の作品に比べ高校生の作品は、発想に見劣りを感ずる。経験と知識の浅い高校生にとってはやむを得ないことと思われる。 |
■山本紀久((社)ランドスケープコンサルタンツ協会参与) |
一律、類似、の作品が多かった初期の頃に比べ、自己の主張や独自性のあるものが出てきた。また、この一、二年前から学名の併記や花暦の提示、見る人を楽しくさせる吹上笑美さん(佳作)の丁寧な植物の書き分けなど、造園の特徴である「植物」を主題にしたものが目立つようになってきている。コンサルタンツ協会長賞の松本啓吾君の作品は、「プライバシーを保ちつつ外に開く」というコンセプトに対して、土地利用やディティールが整合していること。作図の力量があること。植物名に学名を併記していること等、総合力を評価した。文句のない受賞である。このように、年々作品のレベルが上がってきているのは、指導教官の情熱と努力の賜と思う。今後とも、特に高校生に対しては「自己主張(オリジナリティー)」を、大学生には、これに「実現性」の視点を加えた指導をお願いしたい。 |
■岡田藏司((社)ランドスケープコンサルタンツ協会参与) |
設計コンクールでは、普通、コンセプト、デザイン性、社会性、施工性、市場性、地方性、経済性といったことを総合的に評価した審査をすべきであろうが、このコンクールのようにA1の用紙一枚で、それらを全て表現することは至難の業であろうし、審査側でも、それを完全に読み取ることは大変むずかしい。
今回の応募者のほとんどが学生であったということから、前記の社会性、施工性云々と言ったことは、この際ある程度評価の対象から外して、その人の持っている、センスとか、感性、独創性といったことを主な評価対象としてみた。そういった意味で、コンサルタンツ協会長賞の松本啓吾君の作品は、プランニング、作図技術とも群を抜いていた。他に入選作の中に、田口真弘君、八尋俊太郎君の作品が、スケッチ等で優れた表現をしていた。 |
■高橋一輔((社)日本造園建設業協会 技術委員長) |
入賞者46点(内訳:入選18点、佳作10点、奨学賞18点)は、一般の部の該当者なしで、全て大学生及び高校生でした。私は初めての審査委員を致しましたが、こんなにレベルが高いことに驚いています。応募者の皆様は今後造園設計に対し、夢と目的を持って、チャレンジすれば、益々設計力は向上することは間違いありません。常に感性を磨き、形、色、動植物を含め、歴史、文化、郷土等々に関心を寄せて、人間の生活空間・時間に問題意識を持って、進んでいけば、プロになれること間違いありません。表彰式の時の、講評会の意見交換会で、梶谷正義先生が述べられた「このコンクールが一般社会の人々に周知されたものになることを期待している」という言葉を、プロの世界の企業人として意識して、少しでもこのコンクールが知られるよう努力致しますので、教育界におかれましても、力添えを願えればと思います。 |
■佐藤岳三((社)日本造園建設業協会 事業副委員長) |
コンクールというものには“審査 ”がつきものである。応募条件そして審査基準を定めてそれに当たるのだが、創作という意味で感性あるいは感覚的なものが多分にかかわる造園デザインコンクールは中々むずかしい。
昨年の講評で、デザインする “もの ”の意味と目線の重要さについての理解に注文を付けさせてもらったが、今回も重ねてお願いしておきたい。
造園デザインは、 “用と景 ”という利用、審美の単純な図式にあるという人もいるが、事はそう簡単ではなくて、複雑極まりないむずかしさと、自由な面白さを持っている。 “自由な面白さ”これを何とか己のものにして行けるヒントを学生諸君に仕掛けることができないものだろうか。 |