広報 日造協 2003年3月10日 第351号

■6面
【造園工事あれこれ】第74回 
国営讃岐まんのう公園 自然生態観察園   (株)富士植木
【栄養と遺伝子の話】 女子栄養大学教授 香川 靖雄 氏
               女子栄養大香川綾記念 健康と食生活P
1面 2面  3面 4面 5面 6面 7面 8面 見出し

 

●【造園工事あれこれ】第74回 国営讃岐まんのう公園 自然生態観察園
                                  (株)富士植木

 T はじめに
 自然生態観察園は、讃岐地方の懐かしい古里の風景(元風景)を復元した空間です。
 昔、どこにでもあった人々の営みと自然が共生していた空間です。農耕地の耕作が放棄されてから約30年以上、人の手が入らなかった谷戸部分は、希少な動植物を含む野生生物の宝庫となっています。一方、近年の開発に伴い野生のイノシシの生息域が失われ、イノシシが害獣化しつつあるなど、新たな問題も顕在化してきました。そのため、利用者の安全を第一に確保すると共に、自然の仕組み
・四季の移り変り・動植物の生態を観察出来る空間になるよう創られています。
 したがって、施工に当たっては、貴重な湿地帯への影響(動植物)を出来るだけ最小限にとどめ、工事を進めることを基本方針としました。
 1. 工事概要
 @工事件名 自然生態観察園整備第2工事
 A工期 平成13年2月14日〜平成14年2月28日 
 B請負金額 1億7800万円
 C工事概要 敷地造成工・法面整形工・擁壁工・雨水排水工・土系園路工・木系園路工・階段工・デッキ工・自然育成工・他
 D発注者 国営讃岐まんのう公園工事事務所

U 工事手順と留意点及び工夫
工事の手順と留意点および工夫した点は、以下のとおりです。
 1. 準備段階として、現況調査を行い現況図を作成すると伴に施工方法について検討を行いました。
 2. 自然生態系及び生物多様性に関する事項
 (1) 第1段階として、仮設道路の整備を行うと共に濁水対策を行いました。その際、掘削で発生した残土については、一次仮置きしデッキ工事の仮設材・舗装材として、有効利用を図りました。
 さらに、造成工事で生じた残土についても場内にて流用し、有効利用をしました。今回の場合、他地区の搬入土を使用するのではなく現地土を使用しました。それにより遺伝子レベルでの攪乱防止や移入種の進入防止に配慮しました。
 (2) 第2段階として、樹林地内のつる切り及び林相整備作業を行いました。オンツツジ・アセビ・リョウブ
・など花木を基本的に残し整備しました。残材搬出に当たっては、重機の通路を確保することが困難な場合、策道を設ける等の対策を講じ、貴重な水辺の植生・林床を傷めること無く工事を行いました。つる切りの残材については、現地の動植物の生育環境整備を目的にカントリーヘッジを組み有効に利用しました。
 (3) 第3段階として、ルート2の園路造形を行いました。造形に伴い生じた残土(表土)は法面の覆土として、有効に利用しました。法の表面は、ヤシ繊維マットを用い養生を行いました。さらに上流部分から雨水・湧水が一度に流れないように各畦畔を整備すると共に、動植物の生育環境を整備しました。整備の特徴は、現地の植生に馴染むように浚渫した残土を有効に活用しながら整備した点です。オニヤンマのヤゴが生育している表土を30cm角に切り取り、移植し保護しました。園路の谷側は、石積みを行い、目地には表土を詰めました。
 3. 自然育成の工法
 (1) 第4段階として、樹林地内園路(山道)の整備を行いました。素材(天然素材)としては、間伐材を使用した丸太階段、表面(路面)には、チップ材を敷き込み整備しました。園路の際には、カントリーヘッジを有効に配置しながら自然に解け込むように整備しました。
 (2) 第5段階として、地区外からのイノシシの進入防止のため簡易電流柵(約900m)の工事を行いました。
 4. 仮設工事の考え方と
発生材の再資源化
 (1) 第6段階として、秋口(動植物の生育期間が休止した頃)よりデッキの仮設工事を開始しました。施工方法としては、杭の位置出し後、湿地帯の貴重植物(キセルアザミ等)の移植を行い、間伐した樹木を玉切りし並べ、土嚢等を設置し、鉄板を敷設しました。設置後、貴重植物の種が落ちてから、草刈作業を行いました(資材仮置きヤード確保
・種子の保護を目的として行った)。
草刈後、オーガーにて、所定の深さまで掘削し、杭を建込み順次始点側に撤去しながら後退しました。今回の現場のように、片押し施工しか出来ず、貴重な湿地面を壊さない工法としては、最良の工法であったと自負しています。カスミサンショウウオ・ヤマアカガエル・ドジョウ等の成育環境を守るために湿地部分を一部掘り下げ(よどみ・溜り)整備しました。また、一部には、畦畔を上げ水溜りを作り水生植物を観察出来る様な場を作りました。
 (2) 第7段階として、間伐材を利用し、法面の保護を行いました。逆様池周辺は、表土にて法面整形後、つる切り材を使用し、落ち葉を掛け土砂流失防止を図りました。
 (3) 第8段階として、デッキ部分の茶堂(竹の茶堂・水辺の茶堂)工事を行いました。屋根材は、麦わらを使用し葺きました。インタープリターがガイドウオークした際の説明コーナーとしての役割もあります。
 (4) 最終段階として、進入路の舗装工事を行いました。この舗装は、現地土(花崗土)にNSC硬化剤・セメント・顔料を入れ現場練にて舗設しました。
 (5) 濁水対策としては、沈砂池の3号水路部分及び落口部分にわら俵をフィルター材として使用し急激に濁水が流下しないように工夫しました。
 5. 景観形成
 全般的に自然生態系への配慮が中心でありましたが、景観形成についても主要部分のイメージスケッチを基に確認をしながら施工を進めました。
     
V 完成後
 工事完成に当たっては、関連機関及び施工協力業者の協力に深く感謝していまます。
 工事着手より完成まで約1年間、四季の変化を肌で感じながら施工できたことを今後の施工に生かしていきたいと思っています。




北の谷(竹の茶堂)からの眺望(施工後の写真)
施工前のイメージスケッチ
デッキ工事仮設(土嚢積みを行い鉄板敷き)
カントリーヘッジとチップ敷き均し


丸太階段と間伐材を利用した縁木。
法面保護として、堆積腐葉土を活用
石組みとソダ組み

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●【栄養と遺伝子の話】 女子栄養大学教授 香川 靖雄 氏
               女子栄養大香川綾記念 健康と食生活P

21世紀はバイオの時代と呼ばれることは、植物の品種に関係の深い造園業の方々でも聞いておられるであろう。例えば少ない水分や栄養分によっても育つ植物の品種は普通の品種と違う遺伝子を持っている。同様に同じ食事、運動をしても肥満や糖尿病になる人とならない人がいるのも遺伝子の違いによる。ヒトを作り上げている遺伝子全ての集まりをヒトゲノムとよび、30億個の塩基が並んでできている。同一種内の正常個体間に形質や形態や遺伝子の多様性が存在することを多型という。多型の中でも、僅か1塩基の相違で起こる多型が一塩基多型でSNP(スニップと読む)と呼ばれ、最も普通の多型の様式である。生活習慣病は高血圧、動脈硬化、糖尿病などでいずれもその発病には数多くのSNPが少しづつ関与しており、しかも栄養や運動によっても発病は大きく左右される。遺伝子の全てが等しい1卵生双生児の肥満度、高血圧、高血糖などの兄弟間の一致率は最高で70%弱、平均50%であるから、栄養・運動などの後天的な努力で生活習慣病が予防できることが判る。日本人が白人に比して高血圧症に罹りやすいことや、欧風化した食習慣によって糖尿病が激増している現状は重大な関心を集めている。日本人の健康に適した米は揚子江デルタ地帯に起源があることは遺跡のプラントオパールや稲の遺伝子で判った。しかし、肥満のSNPのため、米に代わる脂質摂取が増し動脈硬化が増加した。日本人には寝たきり老人や痴呆が、白人に較べて圧倒的に多い。その約半分は高血圧による脳卒中で半身不随や痴呆が発生するためである。高血圧は白人に少なく日本人や黒人に多いのは血圧に関するSNPの頻度の相違による。しかし、高血圧になりやすい型のSNPであっても減塩と減量で予防できる。SNPに応じて、どのような栄養摂取、運動量、医薬が予防に有効か、という個人対応の栄養学は今後解明されて行くであろう。栄養に良い高オレイン酸大豆が世界の市場を席巻しつつあるように、植物遺伝子と栄養学も急速に進歩している。

女子栄養大学ホームページ http://www.eiyo.ac.jp

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