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生きもの扱う造園の考え方 造園近自然技術

第2章 造園近自然技術の展開

1)造園近自然技術の展開ための基本的考え方

 造園近自然技術の展開のための手法は、次のように考えられる。何れも自然の力を基準に、それを利用する概念である。

保全(Conservation コンサべーション)
修復(Rehabilitation リハビリテーション)
復元(Restoration リストレーション)
再自然化(Renaturerization リネイチュアリゼーション)
創成(Creation クリエーション)

保全: 自然に手を加えない事を基本とするが、自然林存続のためにソデ群落を補植したり、保全施設を設ける等の行為を含む。
修復: 人工を加えた部分及び周囲を、自然状態に戻すよう手を加え、自然の回復力を助ける行為。
復元: 損なってしまった自然の部分又は全体を、元の状態に戻す行為。
再自然化: 人為的空間を見直し、本来その土地に存在する植物や生物を導入して、自然空間を再構築する行為。
創成: 人工的空間や荒地などに、新たに自然状態を創り出す行為。

 これらをふまえ、計画目標を設定する必要がある。目標とする時代や植生の決定は特に重要である。古い時代設定をすれば、森の植生は「原生林」や「潜在自然植生」となり、人間が介在した里山の自然ならば、二次林となる。目標設定には、充分な検討を加える必要がある。

2)展開形態と作業項目

 おおまかな展開形態の概念を下図に示す。

プロジェクトへの関わりの度合い

展開概念図
プロジェクトの期間

 これを基に、目的に合わせてフローチャートを組むことになるが、主な作業項目を記しておく。なお番号は、作業の順番とは関係ない。

 (1) 目標の設定 (2) 仮説の設定 (3) 計画・設計 (4) 仮説の検証
 (5) 施工 (6) 追跡調査 (7) データ整理 (8) 管理 (9) 評価

 これらの作業項目で特にこれまでの造園計画・施工と異なる点は、仮説の設定、検証、追跡調査、データ整理であり、住民、市民との協議が繰り返し行われる点である。このように発注者、施工者に課せられる課題は頻多なものとなり、新たな知識と能力の開発と、腰を据えた協議態勢が必要となる。

 具体的内容は次に示してみた。

(1) 目標の設定: 景観、植生、生息生物、時代等について検討し、整合性のある目標を具体的に設定する。
(2) 仮説の設定: 植生の生育、生息生物の種類、生息場所、行動範囲、数等について、事業の進行に従ってどう変化し、いかなる成果を得る事ができるかを、環境、工法、時間経過など多くの条件を付して仮説を立て、計画、設計に反映させる。事業の成否を決定づける重要なポイントである。
(3) 計画・設計: これまでの進め方と異なり、発注者、計画者、市民住民、施工者が、共通の場で論議して、計画、設計内容を決定していくシステムを創り、運営していく必要がある。
(4) 仮説の検証: 具体的な計画、設定の内容が仮説と整合性があるか、仮説に修正を加える必要があるか、検証する。
(5) 施工: 自然との折り合い、計画目標、仮説を理解し、技術的検討を加えながら施工する。従来の工事のように、図面通りにやれば良しとするのではなく、自然条件に応じて、工法、施工位置などを設計者と協議しながら定め、臨機応変に対処する必要がある。
(6) 追跡調査: 植生の状況、生息生物の状況等の仮説と現実の差、傾向などを追跡調査し、設計、施工の整合性を検証するとともに類似例のための基礎データを作成する。
(7) データ整理: 一連のプロジェクトの流れと、植生や生息生物との関係を調査し、データを整理して、公表する。
(8) 管理: 管理はこれまでの公園管理と異なる生物管理が必要となる。生息生物の種類、分布、数などの把握、データ化等の作業は、追跡調査資料と連動して整理され、再び管理資料としてフィードバックされる。 また関連事業のための資料として利用される。施設管理は、リサイクルされる材料(木など)のメンテナンスや更新、生物の生息状況に応じての位置、構造等の検討が必要となる。美的要素、快適さについて心得ておくことも重要である。 植栽(植生)管理は、生息生物の種類、分布、数の把握を通じて検討し、必要に応じて補植、移植、間引き等を行う。その、程度については、美、快適さについても、きちんとおさえておくことが重要である。何れの場合も、利用インパクトを考慮に入れて管理することが重要である。
(9) 評価: 既に河川や里山、エコパーク等では、土地のポテンシャルに対する様々な評価法が試みられている。他に計画や施工に対する評価も必要である。今後、造園近自然技術を適用していくためのツール(道具)となる独自の評価手法を確立する必要がある。

● 評価手法の参考例

 下表は、河川における評価法(玉川信行ら1996年、Rahmanら1996年、および白川ら1997年)を改変して作成したものである。

 生息域適性度評価に必要な下位評価法と重要な要素
必要な評価法 重要な要素
時間評価法
微視的生息域評価法
巨視的生息域評価法
生活過程評価法 社会的、経済的評価法
不確定性、信頼性
景観的評価法
快適性評価法 合意形成
自然的及び人為的な植生変化と生息生物変化の時系列
地質、土質の構造、構成、複数の種における生態的圧力
気候、気象特性
生物の成長と死
環境向上の社会的影響と環境経済学的分析
植生、環境圧などに関する不確定性、信頼性
景観の向上、美
快適さ、不快さについての分析
法の構造、住民参加
 なお、植物生態学的評価としては、次のような試みが行われている。
植物種の評価

帰化植物率による評価
定着度指数による評価
都市化の度合い評価
「土着の種で、消滅する可能性の高い種族を保存すべきである」
生物多様性の定着率として把握
すべての種の植物にその地域における土着性を考慮する。
現存植生図から都市化の度合いを評価する。
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