いままで74回にわたり掲載された「造園工事の事例紹介」など、造園技術に関する記事を、今後は装いも新たに技術レポートとしてお届けすることになりました。
すでに広報日造協 第353号(8月10日)でもお知らせしたように、建設業法の第二条第一項で規定されている造園工事の内容の一部が改正され、造園工事の内容に《道路、建築物の屋上等を緑化し、又は植生を復元する工事》が追加され、造園工事の例示に《屋上等緑化工事》が追加された。本号では今回の改正と建設業法、そして造園についてより詳細な解説をしたい。
今回の一部改正は前述のとおり、造園工事の内容については、平成15年7月25日付けの国土交通省告示
第1128号で国土交通大臣から告示され、具体的な例示については、平成15年7月25日付けの国総建
第109号で国土交通省総合政策局 建設業課長から通知されたものである。
建設工事の種類
建設工事の内容は、建設業法によって定義されているものである。
建設工事は建設業法の第二条で《この法律において「建設工事」とは、土木建築に関する工事で別表の上欄に掲げるものをいう。》と定義されているもので、この条文でいう別表の上欄には【建設工事の種類】として土木一式工事、建築一式工事の二つの一式工事のほか、造園工事、大工工事、左官工事、とび・土工・コンクリート工事、石工事などの専門工事業が掲げられ合計28工事に分れている。
これら28種類の建設工事に対応した各建設工事の内容と具体的な例示は、現実の建設業における施工の実態を前提として、施工技術の相違、取引の慣行などにより分類されているもので、各々の工事の内容は、他の工事の内容と重複する場合もあるとされている。建設工事の内容は現段階における各建設工事の内容を定義したもので、時代の変遷により、施工技術の進歩発展あるいは、施工実態の変化などに伴って変っていくものであると考えられている。
建設工事の例示も各建設工事のうち主なものを掲げたものであり、変化することが予想されている。
このように建設工事は28種類に分類されているわけだが、造園工事業はその中でさらに指定建設業とされている。
指定建設業は、建設業法の第15条の第2号
ただし書きで《施工技術(設計図書に従って建設工事を適正に実施するために必要な専門の知識およびその応用能力をいう)の総合性、施工技術の普及状況その他の事情を考慮して政令で定める建設業》とされた工事業で、土木工事業・建築工事業・管工事業・鋼構造物工事業・舗装工事業・電気工事業・造園工事業の7工事業である。
このただし書きからもわかるように、指定建設業である造園工事などは他の専門工事業に比べ、施工技術の基礎となる理論体系が高度かつ複雑であり、工種も大規模かつ複雑なものである。そのために、営業所に置く専任技術者、監理技術者についても技術水準が高度で客観的に確認できる国家資格者等が求められているのである(参考資料:建設業法解説 建設業法研究会編集)。
「造園」の定義
今回の一部改訂では、造園工事の内容と例示が対象となった。
これは、今まで長い時間をかけ築き上げ行ってきた造園工事の幅広い領域がより明確にされたものであり、造園工事のみを対象として改定されたものであることは特筆すべきことである。
では造園は一般にはどのように定義されているのだろうか?
まず、国語大辞典をみると、ぞうえん(ザウヱン)【造園】とは
《石・砂・木・草などを適当に配置して庭園をつくること。また、庭園・公園・動物園などをつくること。「造園術」》
とされていて、園という囲まれ限定された空間を対象として捉えられている。まさしく今までの建設業法で造園工事の内容によって定義されていたとおり《整地、樹木の植栽、景石のすえ付け等により庭園、公園、緑地等の苑地を築造する工事》という解説になっていて、これはおそらく現在の一般市民の方々の認識も同様であると思われる。
一方、東京農業大学造園科学科編の造園用語辞典によれば
ぞう ― えん【造園】は
《一般には、庭園や公園などをつくること、あるいはつくられたもの、の意。しかし、その対象空間の拡大及び技術的基盤が土地・自然の合理的、風致的取扱いにあったため、居住地の敷地計画はもとより、都市地域全般の緑地系統を初めとする土地利用計画、さらには田園地域から自然地域の国立公園や観光地などの風景地計画までを体系的に整序する科学技術へと発展した。(中略)
こうして現在、「造園は、人工と自然の調和共存を図りながら、人間の多様な要求と満足を満たすために、主に緑を活用して、土地・自然・風景、すなわち都市地域から田園地域、自然地位にわたる各種環境空間すなわち造園空間を保全し、創造し、秩序付ける計画実現のための総合技術体系といえる」(後略)》
とされ、
ぞう ― えんくうかん【造園空間】は
造園計画や造園デザインの対象となって創出されたり、保全されたり、景観操作された、一つのまとまった構造を持つ空間、ここで、一つのまとまりとは、周囲を囲まれた園、つまり物的まとまりとしての空間を単に指すのではなく、景色や風景として一望できるまとまりある範囲をもさす。(後略)
というように、大きな空間を対象とした幅広い技術を含むものであるとされている。
これこそまさに現代造園の対象とする領域であり、今回の改正で
《整地、樹木の植栽、景石のすえ付け等により庭園、公園、緑地等の苑地を築造し、道路、建築物の屋上等を緑化し、又は植生を復元する工事》とされたことは、従来から我々が造園工事で行ってきた幅広い領域が、建設業法によって明確に定義づけされたことと考えることが出来る。
造園工事の特徴
次に、造園工事は他の工事に比べどのような特徴があるのかを考えることによって、我々の生業である造園をより明確にしておくために、造園工事でのものづくりにおける特殊性・独自性を整理しておく。
■施工技術・施工方法における特殊性・独自性
●造園は、作庭を伝統的基本技術として発達し、植物、自然石材、加工石材、その他の資材を用いながら植栽や池、流れ、つきやま、四阿、橋、広場、園路などをバランスよく配置し、美しく、心安らぐ、あるいは思索を巡らす空間づくりを行ってきた。
●他の建設業と大きく異なることは、取り組みの考え方にある。他の建設業では稀である植物や自然石といった不定形の材料を用いながら周辺との調和、空間とのバランスやおさまりに配慮し、快適で美しい空間づくりを行おうとすることである。
●植物などの生き物を扱う唯一の建設業であることから、地域性、環境とのバランス、成長という時間軸を意識しながら仕事を行っている。
●都市、農村、自然環境といった多様な場面で、生き物を含めた材料を用いながら、環境に配慮し、おさまりよく、快適な環境づくりを行っているのが造園のものづくりである。
●造園はそもそも自然の観察から始まり、自然の摂理を意識しながらものづくりを進めてきた。他の建設業が機能性、経済性、安全性を重視し、自然の力に対する人間の活動を守るという観点から対峙的であるのに対して、自然との調和、共生を意識するというのが造園である。
■使用機械・使用材料等における特性
●造園施工で用いられる機械・使用材料は、植物、自然石など生き物を扱う唯一の建設業であり、自然素材を多用するものづくりに最適なものが必要となる。
●植物の特性にあわせた機械・器具として、移植専用機・維持管理用機械器具・剪定枝葉破砕機・石工事用多関節クレーンなども独自に開発されている。
●小規模、多工種であるため、小型の機械を多用する。
●生きものである植物材料、不定形な自然石などの自然素材を多用することによって、自然と調和した空間を作り出している。
●造園工事では多工種小規模であり、標準化しにくい一品生産の要素が強いため、他の建設業で行われているシステムをそのまま導入することにはそぐわない点も多い。
●植物や自然石のような素材を活用し、工事完成後も成長を続ける植物などの管理を行いながら完成する造園空間では、全ての情報を設計図、仕様書、特記仕様書等だけによって伝えることは困難である。
造園技術の必要性と認知
このように、様々な特性を持つ造園工事が対象とする領域は、公園や緑地などの総合的な建設工事から、道路、河川、屋上等の緑化工事、動植物についての知識と技術を活かした保護・育成による植生の復元工事、さらにいきものである植物の維持・管理にいたるまでの幅広いものであることの理解を深めることが大切である。
また、多年にわたる公園緑地等の整備、造園・修景に関する経験と、日本庭園などの伝統技術を基礎として蓄積した技術を活かして、都市環境や生活環境の整備に貢献してきた実績があることを広くアピールすることも求められる。
そして、すぐれた造園修景技術が必要とされる様々な工事に、日造協を中心とする造園建設業が工事にたずさわり、ますます発展することを願わずにはいられない。
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